Project Fx 2.0

怪文書と備忘録を書きます

漫画 『ラーメン発見伝』: 全話レビュー

この記事はLipersInSlums Advent Calendar 2024 「スラムで年収をあげる〜だが僅かばかりの友の他は、皆、スラム民を嘲った。資格取得で年収アップに挑むなどと〜」 第18日目の記事です。何を食ったらこんなタイトルが思い浮かぶんでしょうかね? 間違いなくラーメンですね。

adventar.org

snowwhitelilies氏によるレビューに影響されて『ラーメン発見伝』『らーめん再遊記』を全巻購入・読破し、せっかくなので私も自分なりに感想をまとめることにしました。俺は師走に何をやっているんだ?

実はこの記事は2021年に書き始めたのですが、途中で飽きてしまい、そのまま今年までprivate Gistとして眠らせていました。最近になって『美味しんぼ』の「ラーメン戦争」を読み、ラーメン熱が再燃したことでやっと完成できた次第です。ちなみにその勢いで、シリーズ第3作『らーめん再遊記』も既刊全巻を読了しました。

連載期間は1999年~2009年。令和6年の現在から見ると、色々古い描写が多いことを差し引いて読む必要があります。子供時代にテレビや町中で見ていた流行が次々に出てきて懐かしかったです。複数話にわたる中・長編のタイトルについては、snowwhitelilies氏によるレビューで使われていた仮称をそのまま借用しています。あとネタバレ注意。

第1巻「繁盛店のしくみ」

第1杯「ラーメン、会社員、現る!!」

ラーメン版山岡士郎、藤本浩平の登場。「作っちゃっていいんですか?オレなら同じこの高津屋の味の組み立てで、これ以上のラーメンを作れますよ。」という藤本のセリフはいかにも山岡士郎チック。直後のシーンで明かされる「会社での働きはズタボロなダメ社員」というところも山岡と同じ。読み進めるうちに同僚の佐倉が登場し、ああ彼女が栗田さんポジションなんだなと分かる展開。

記念すべき第1話だが「ラーメン版美味しんぼ・本日開店」という感じの話で、正直そこまで面白い展開はない。しかし、この第1話こそが最終話までつながる大きな伏線になっている。

第2杯「泣く子も黙る大魔神!?」

小池さん・有栖さんの初登場。「客の意見に流されるな、自分の店は自分で守れ」という、おそらくは脱サラ開業店主に向けた教訓話

小池さんのキャラは、明らかに藤子マンガの「小池さん」そのもの。やたら良い人なのはビッグネームからの借り物ゆえか。妙に気の弱い有栖のキャラにはグルメ漫画の審査員ポジらしからぬ愛嬌を感じる。

第3杯「ラーメン小学生vs藤本!?」

祐介の初登場。「麺には熟成しないと美味しくないタイプのものがある」というだけの話だが、序破急がはっきりしていて面白い。

第4-5杯「課長の宿題、無理難題!?」

四谷課長の初登場。昼行灯に見えて実はやり手、といういかにもなキャラクター。蕎麦好き&ラーメン嫌いの醤油メーカー社長に、ラーメンでも醤油の質が重要であることを訴える。醤油ラーメンでなく、あえて豚骨ラーメンを食べさせるのが面白い。

また、シリーズ全体を通してもあまり言及されない存在・かん水について触れている数少ない回でもある。ただし触れ方はかなりあっさりしていて、『美味しんぼ』の「ラーメン戦争」では3話も使ってかん水批判をやっていたのと対照的。

第6杯「職人芸とラーメン魂」

老いて往年の職人芸を振るえなくなったラーメン職人に、補助用の機械の導入で対応する話。

機械のアシストと人間の能力、というテーマは生成AI華やかなりし現代だからこそ考えさせられるものがある。機械に抵抗感を示す店主を説得する藤本の言葉は至言。「オヤジさんは職人芸を見せたくてラーメン屋やってたわけじゃないでしょ? お客サンに美味しいラーメンを食べさせたくてやってたんじゃないんですか!?」

第7-8杯「繁盛店のしくみ」

超・有名な回。第1巻の中では最も面白い。本作の海原雄山ポジ・芹沢達也の初登場。

「いいか、ひと言忠告しといてやる。オマエはただのラーメン好きとしては、味をわかってるほうだ。しかし、プロを目指す身としては、なにもわかってない。ラーメンのことも客のことも商売のことも、なにもかもだ。」「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」本作未読でも切り抜き画像を見た人は多いであろう、有名な名言。このマンガがラーメン版『美味しんぼ』で終わらず、(先例がないでもないとは言え)リアリズム的な店舗経営の視点を入れたグルメ漫画としての立ち位置を確立し、今日まで続く長期シリーズにまで成長したのは、この回ならびに芹沢さんの功績だろう。

「濃口らあめん」の欠点に開き直る芹沢に対して、藤本は「濃口らあめん・改」というべき改良案をぶつける。牛脂ではなくネギ油を使うことで、こってりだが鮎の煮干しの風味を感じることができる。これなら客を味に目覚めさせられるかもしれず、こちらの方が「淡口らあめん」という理想を実現する戦略としてはスマートだという藤本。「”鮎の煮干しの風味が活きてる” と言うからには、お客サンにはその通りのラーメンを食べてもらいたい。」要するに、「芹沢サンみたいにウソは食わせたくないってことです。」

ネットミーム化して独り歩きしている有名なマンガ台詞の蓋を開けてみると、切り抜き元の作者の主眼はそれを否定することにこそあった、ということはよくある。この話はその典型例だろう。「情報を食ってる」だけがクローズアップされがちな本話だが、藤本の "情報を食わせるにしても、客に嘘をつくような情報は良くない" という反論があってこそだと思う。小池さんの「お客サンにはできるだけ情報を食べさせたくない。ラーメンだけを食べてもらいたい。評価の言葉は「うまい」か「マズい」だけでいい……」というアンチテーゼにも注目。ただ、藤本たちが言っているのはあくまで「ミスリーディングな情報を意識的に食わせるのは如何なものか」ということであって、「情報を食いに来てる客がいる」こと自体は事実として認めている。「ラーメンは庶民的な食べ物」と語る小池さんについても、「なんの枠にもとらわれないラーメン」を指向する芹沢さんとは価値観が正反対なことに注意したい。小池さんが言うように、「それが唯一の正解じゃない。ボクにはボクの答えがある」のだ。 ラーメンハゲが唯一無二の真理であるかのように語ることは本話の趣旨を損なっているのではないか。

ともあれ芹沢は言葉を失ってしまい、アイデアを買って藤本に借りを作る形となる。この回の芹沢さんはやや小物チック。とはいえ "最初に出会った難敵が、最後まで難敵のままラスボスになる" という展開をやり遂げているのはバトルものとして気持ちいい…が、後々強調して描かれる芹沢のラーメン創作能力を見ると「なんで藤本に言われるまでネギ油ラーメンを考案できていなかったのか」というツッコミは残る。人気メニューを入れ替えるのはリスキーすぎると考えたか?

今後のエピソードや後年の『才遊記』『再遊記』などで、実力のない人物に対して芹沢が非常に辛辣であることが明かされる。これがただのラーメンオタクだったなら、しかもいきなり店に殴り込んできて生意気なことをほざいて行ったとなれば、芹沢はタダでは置かなかったはずである。しかし藤本のネギ油ラーメンには何も返せず、内心「なかなかやるじゃないか」と認めている。芹沢としては最上級に近い賛辞だろう。この後芹沢が藤本にやたらとちょっかいをかけるようになるのは、藤本の素質を認めていることの裏返しと言えるだろうか。

第2巻「塩の秘密」

第9杯「老舗の味、オヤジの味」

人情話。名店と名高かった亡き父のラーメンを忠実に再現したはずの息子だったが、かつての常連客たちには酷評されてしまう。それは戦後の経済成長の中で、ラーメン全体の味わいも食べ手の味覚も大きく進化していたからだった。

本シリーズで一貫して主張される「ラーメンに『古き良き』の概念はない」という価値観の初出。「いくつも料理を作れなきゃならないレストランはまだしも、ラーメンだけ売ればいいラーメン屋に修行などいらない」という藤本の談はおそらく監修者の石神氏の見解だろうが、藤本が言うと独学で開業を目指す身としての強がりのようにも読める。

第10-11杯「塩の秘密」

芹沢さんの再登場。ネギ油ラーメンの借りを返すため、藤本のラーメンを無償コンサルする芹沢だったが…。「いやあ、藤本クン… やっぱりキミは実に優秀なラーメンマニアだ。」「え…?」「プロとしてはキツい… ということさ。」藤本(アマチュア)と芹沢(プロ)の対決はここから始まる。

納得できない藤本に、芹沢は塩ラーメン勝負を持ちかける。藤本のラーメンは麺・スープ・具のすべてが上質な品だったが、それが裏目に出て、全体としてはアンバランスな仕上がりになっていた。それを見抜いていた芹沢は、味のはっきりした塩ラーメンで勝負を挑み、藤本にラーメンの欠点を気づかせてくれたのだ。

「確かにオマエは巧みに”上手いラーメン”を作ることはできる。だがプロは真に”旨い”ラーメンを作るんだ。」という芹沢の言葉は至言に思える。

第12杯「小池さんの技」

ナルトの初登場。当時の「チャラくてチャランポランな若者」のパブリックイメージが窺い知れる。単に「鍋からスープをすくって器に注ぐ」だけに見えるが、鍋の上に溜まった脂を適量のみすくう技術が重要。スープのすくい方ひとつとっても適当にやってはダメという教訓話

この話以降、未熟なラーメン店主に調理技術や心構えを指南する話が増え、「まんがで読むラーメン屋経営指南」の色が濃くなってくる。脱サラ開業を目指す読者、あるいは開業したけど閑古鳥が鳴いてる店主に向けたものであろうか。

第13杯「大衆料理の味」

手頃な価格帯のラーメンでは、スープやタレの旨味の源としてチャーシューに頼らざるを得ず、結果としてダシガラ化したチャーシューを客に出すことになりがち。その解決策の1つとして、フレンチの「ポー・サレ」なる技法を提案する。

英語版・フランス語版のWikipediaでは「Petit salé」として同様の料理が立項されている。フランス語で「Porc salé(ポー・サレ)」というと単に「塩漬け豚肉」全般の意味になり、この話で説明されているような方法とは結びつかないようだ。

ここで出てくる藤本の母校・中秀大学&その学食のラーメンは、続々編『らーめん再遊記』で再登場します。

第14-15杯「トンコツ大戦争

初のご当地ラーメン回にして、豚骨ラーメン回。「どんたく亭」と津田親子の初登場。

「もう典型的なトンコツラーメンは、九州以外では通用しなくなってしまったからです。」という問題提起。豚骨ラーメンブームの結果、東京を中心とする他のラーメン店もコクのあるスープに注力しはじめ、全体的なレベルが上がった。しかし豚骨ラーメンは「豚骨スープを使う」という縛りのせいで潮流に乗れず、進化の火付け役でありながら時代に取り残されつつあるという時流紹介話。

第16杯「ラーメン・コレクター」

ラーメンマニアによるネット中傷の話。「『誰も知らない自分だけの店』を見つけて自慢したいが、それが『皆知ってる有名店』になるのは許せない」という動機で、一度自分で店を絶賛してから徹底的に貶めるという「ラーメン・コレクター」とでも言うべき人々がいる。

この作品に登場する迷惑ラオタは、今で言うところのチー牛とはまた異なる顔立ちをしていることが多いという気付き。この話を見ていて、サブカルチャー作品に見るオタク表現の推移という分析が出来そうだなと思いつきました。有栖さんのノートパソコン(クラムシェルのiBook G3)に時代を感じる。

第3巻「札幌ラーメン・夏の陣」

第17-19杯「札幌ラーメン・夏の陣」

ご当地ラーメン回にして味噌ラーメン回。北海道のラーメンと言えば、全国的には札幌の味噌ラーメンが定番。しかし札幌味噌ラーメンには観光客目当てのいい加減な店が多いのが現実で、地元民の間では旭川醤油ラーメンの方が人気がある。

というのも、「札幌には本当にうまい味噌ラーメンなんて存在しません。なぜなら、どの店も味噌ラーメンの持つ構造的欠陥に気づいてないからです。」「つまり、味噌という調味料はうますぎる……それが味噌ラーメンの最大の魅力であり、最大の弱点なんです。」ネットで味噌ラーメンの話題が出ると貼られがちな有名セリフ。

要するに、味噌はそれ自体に強烈なうまみ・風味があるので、いい加減に作っても味をごまかしやすいし、逆にその店独特の美味しさも出しにくい…という難しさがある。そして旭川醤油ラーメンとのグルメバトルに入り、味噌ダレを減らしつつ「味噌だまり」を併用したラーメンで勝利。「札幌に味噌ラーメン屋が増えたのは昭和40年代以降で、それ以前は札幌ラーメンといえば醤油ラーメンのことだった」というのは全然知らなかった。

第20杯「跡継ぎの条件」

味を守る従業員より味を改良する従業員の方がいい従業員という話。引退予定の親父がどう見ても山岸一雄

第21-22杯「コンペ勝負!!」

「自然食レストラン 大地」で提供する醤油ラーメンのメニューを決めるべく、四谷課長の提案で芹沢さんと勝負。この辺から「大地」を舞台に芹沢とラーメン対決をする構図が定着していく。

味の改良に熱中する藤本に対し、芹沢の一言が全てをひっくり返す。「審査など必要ない。このコンペ、オレの勝ちだ。」

芹沢の真意は、安定供給のできない季節モノの食材を藤本が使っていたことへの指摘にあった。「レギュラーメニューなのに、一年を通して出せないラーメンを持ってくるとはな。うまいマズいだけに気を取られ、こういう無責任なことをやるから、しょせんオマエは”ラーメンマニア”だというんだ。」

「まだプロになる気があるのなら、覚えておけ。厨房だけがラーメン屋のすべてではない!」本作のスタンスを象徴する一言。

グルメ漫画にありがちな「貴重な食材を手に入れれば勝ち確」という定石を否定する、コストと供給という視点。この後もシリーズを通して度々強調されることになる。

第23杯「祐介の初恋」

片山夫妻の初登場。「石橋を叩いて渡るタイプより冒険してミスするタイプの方が、魅力的で美味しいラーメンを生み出す傾向がある」という教訓話なのだが、こうした思想を「教訓話」としていること自体からも、本作品で頻出する「ラーメン=固定型のない創作料理」というテーゼが窺い知れる。

片山さんのキャラが「こういうタイプのラーメン屋にはなってはいけない」という教訓話のモデルケースとして便利だったのか、これ以降片山さん暴走シリーズが始まる。

第24-25杯「夫の味」

教訓臭さのない、ストーリー展開で読ませる話。

第4巻「日本・台湾、麺勝負」

第26杯「伸びない麺!?」

「らーめん厨房どきゅん」と武田さんの初登場。現実世界で二郎系が異様な人気を博したせいで、元は端役だったのに作中での扱いがどんどん上がっていった稀有なキャラ。いわゆる二郎系ラーメンは量が多すぎて食べている間に麺が伸びてしまうので、麺の加水率を上げなければいけない。

「見ず知らずの人にとんでもないことを…」この頃の武田さんはまだ常識があった。

第27-28杯「ネットバッシング」

「大野屋」と大野さんの初登場。「情報を食わせる」戦略の一環として、ラーメンマニアを使ったステマ工作をする芹沢さんが登場。関係ない店をパクリ認定して誹謗中傷する芹沢信者、20年前の漫画とは思えないほど今に通ずる生々しさがある。

清濁併せ呑む人物として描かれる芹沢だが、この回ではかなり悪役の要素が濃く描かれている。「ラーメンオタク特有の幼児性」とかすごいこと言うねアンタ。

最後、芹沢さんが出演しているテレビ番組の背景に、しれっと「味噌ラーメン1000円」などすごい文言が並んでいる。この時代にその値付けの異常さ、そしてそのことに気づかない店主の鈍感さ。そりゃ閑古鳥鳴くわ。

第29杯「陳さんの悩み事」

「中華料理店のラーメンスープには、共通した構造的弱点があるからなんです。」というのも中華料理店のラーメンは、スープが他の料理との兼用のため個性に乏しい味になってしまう。異なる系統の二種類のスープをブレンドする「ダブル・スープ」の手法で解決。

第30-34杯「日本・台湾、麺勝負」

本作で初の長編。テーマは台湾の牛肉麺。「日式拉麺」がブームとなっていた台湾だが、日本のラーメンをそのまま持っていっても受け入れてはもらえない。そこには「味覚の違い」という大きな壁があった。

第5巻「天才、現る!?」

第35-36杯「プロとアマチュア

佳作回。芹沢さんと再び塩ラーメン勝負。まず「専業のラーメン屋ですらスープの調理・保管は大変。いわんや(他のメニューが色々ある)一般のレストランをや」という問題が提起され、厨房のオペレーションを考慮していなかった藤本が不備を指摘される。そこで、既存のスープをブレンドして塩ラーメン用のスープを開発する、というお題が課される。

スープのブレンド配合では芹沢と引き分けた藤本。しかし塩ラーメンには塩ダレが必要だという固定観念があった藤本は、燻製で香りづけした塩を加えただけ(調理も簡単で保存も効く)の芹沢に完全敗北を喫する。

第37杯「常識と非常識」

スープはどんぶりから直接飲むほうが美味いというのがかつての常識だった(そうなの?)。だが、近年のニューウェイブ系創作ラーメンのスープ…つまり表面に油を浮かせた多層構造のスープではレンゲを使わなければ味がわからない。

第38-39杯「天才、現る!?」

天宮の初登場。悪質な商売を平然と続ける割に、妙なところで公正さにこだわるという癖のある人物造形。料理漫画で「情報公開がモットー」という設定はかなり興味深い。

第40杯「出前狂想曲」

麺は伸びるしスープは冷めるという出前ラーメンに付きもののまずさを、麺とスープを分けて出前することで解決。現在のフードデリバリー等ではごく当たり前に行われていることですが、連載当時としては新しい指摘だったのかも?

第41杯「ラーメンの流儀」

和食・イタリアン・フレンチ等から異業種参入したラーメン屋が陥る問題。ラーメンがわからないことではなく、異業種参入ゆえにラーメンの既成概念に囚われてしまうのが良くない。この回以降、他の飲食ジャンルから異業種参入したラーメン屋に、ラーメンとは何たるかを啓蒙する話も増えてくる。

調理技術的な面としては「イノシン酸グルタミン酸のバランス」が今回のキーポイント。『美味しんぼ』の「ラーメン戦争」で既出。

このシリーズ全体に共通することだが、特に本作『発見伝』では「ラーメン=型のない創作麺料理」という価値観を前提にしており、その好例となる回。ラーメンブームの高まり、「支那そば」から脱出しようとしていたラーメン業界の事情などといった、当時の世相を反映したものか。

第42-43杯「つけ麺の弱点」

芹沢さんとのつけ麺勝負。最初に、麺とスープに温度差があるので口内でぬるくなるというつけ麺の弱点が提示され、それを解消したつけ麺を作るというお題が課される。

麺・スープを冷たく統一して「温度差をなくす」ことを図った藤本だったが、芹沢はフレンチ等のデザートに着想を得て、逆に「極端な温度差をつける」ことで根本的な改善を成し遂げる。そして、既存のつけ麺の改良に留まった藤本を所詮マニアと嘲ってみせるのだった。

平成の一時期、何故かやたらつけ麺が流行って、どこに行ってもつけ麺屋がたくさんあった時期がありましたよね。

第6巻「日本海ラーメン紀行」

第44杯「作る側、食べる側」

大野さん回。客の数を予測して営業中ずっとラーメンを提供できるだけのスープを確保することは「店の義務」。いわゆる「スープ切れ」は店の人気の証明などではなく、単なる店の怠慢だ…という業界批判回。

第45杯「”幻”の名店!?」

ラオタ批判回であり、同時に本作でよくある「客の意見に流されるな」という教訓話。ネット、テレビ、雑誌等のメディアには頻繁に登場するため名店に見えるが、実際には流行っていない店がある。

第46杯「ネギの憂鬱」

ラーメンの薬味について。ネギの青い部分・白い部分にはそれぞれスープとの相性がある。ラーメンと見れば何も考えずネギを入れがちだが、薬味を入れるのならば、そのラーメン固有の相性を考えてセレクトしなければならないという教訓話

第47-48杯「天宮、再び!!」

天宮の再登場。前回はいかにも改心してそうな退場の仕方だった天宮だが、蓋を開けると別にそんなことはなかった。この作者はだいぶひねくれている気がする。

第49杯「ザルの秘密」

湯切りにおける振りザル、平ザルの一長一短の話。扱いが難しく茹で加減がばらつきやすいという平ザルの欠点は振りザルを使うことで、湯切りが甘いという振りザルの欠点は竹ザルに麺を広げることで、それぞれカバー。

第50-52杯「日本海ラーメン紀行!?」

ご当地ラーメン回。今回は新潟ラーメンの紹介。これまで出てきたご当地ラーメンは「味噌」「豚骨」と、「元は地域特有だったが、今では全国に普及して普遍的なラーメンの形式になった」タイプのものだった。対して新潟ラーメンは全国区に進出はしておらず、「ご当地」感の強い代物。

後半は、いわゆる「背脂チャッチャ系」批判になる。80年代〜90年代半ばにかけて流行した背脂チャッチャ系ラーメンは、複雑で重層的な味わいのスープが近年主流になったことで飽きられ始めている。背脂・腹脂を使ってスープの味もしっかりしている燕三条系ラーメンをヒントに、背脂チャッチャ系ラーメンの改良版を提示する。

背脂チャッチャ系批判は、連載中の『らーめん再遊記』でも大きく扱われている。本話と同じ燕三条系背脂ラーメンを持ち出していることも共通。

第7巻「油の魔術」

第53-54杯「客の心裡」

芹沢さん回&外食産業セオリーの回。「1時間が30分より長いとは限らない。」つまり行列で待つよりも、店内で待たされる方が客の不快感が強い。「うまいラーメンで満足しているのは、アマチュアに過ぎない。うまい店を目指してこそ、プロなのだ。」という芹沢のセリフには納得感がある。

会社の金でラーメン店開業の予行演習ができるという破格の計らいをしてもらっているのに、会社のことじゃ真面目になれないと嘯く藤本。この辺にも、藤本に悪い意味での「アマチュア根性」を感じずにはいられない。

第55杯「記憶を取り戻せ!?」

記憶喪失の手がかりを求めて謎のラーメンを探すトンデモ回。正体は千葉県の竹岡式ラーメン食レポをネット検索した限りでは、かなり好みが分かれる代物のよう。

第56杯「季節とレシピ」

食材は旬によって味が変わるし、湿度によって調理方法も変わる。ラーメンのレシピはあくまでも目安でしかないという話。

第57杯「ブランド麺!?」

本シリーズに時々ある「固定観念への信仰」批判回。麺を特注すれば自分の店の味に合った麺を形にできる。そして大手の製粉企業よりも小さな製麺所の方が小回りの効いた発注ができるため、店にとってメリットが大きい。大手のブランド麺だからうまいと無邪気に信じることへの批判。

第58-59杯「油の魔術!?」

芹沢さんとのラーメン勝負。藤本はダブルスープの配合を変えることで醤油・味噌・塩ラーメンの同時実現を試みるが、芹沢は香味油を変えるだけで7種類のメニューを実現するのだった。芹沢がプロデュースした店の店主本人はボンクラそのものという展開が面白い。

第60杯「評論家に貴賤あり!?」

悪徳グルメ評論家の話。藤本の策で丸く収まって仲直り、で終わるかと思いきや、逆に開き直ってしまう評論家。こういうマンガの勧善懲悪回ってだいたい丸く収まりがちなので、こういう後味悪い展開も面白い。

番外編「スープが冷めた日」

芹沢が現在の成功を収める前、誰にも知られずひっそりと挫折した時の話。この話によって芹沢は本作の裏主人公の立ち位置を獲得した。作者が芹沢に感情移入し始めていることが伝わってくる。

第8巻「魅惑の夏野菜対決」

第61杯「サイドメニュー」

ラーメン屋におけるサイドメニューの立ち位置を啓蒙する回。かつてラーメンは他の料理と横並びの存在だったが、料理として確固たるポジションを得たことで、ラーメン専門店が業態として成立するようになった。だがそれにより、一周回って逆に「ラーメンに添えるサイドメニュー」として他の料理が再び必要とされるようになっている。

2020年代におけるサイドメニュー論は『らーめん再遊記』を参照。大枠の結論は変わっていないが、店のアレンジを手掛けたのがこちらでは藤本・あちらでは芹沢なので、サイドメニューについての考え方もよりシビアになっている。

第62杯「夢と現実のあいだ」

人材論。「ラーメンマニアだからメニュー開発担当をやる」という安直な発想では店はやっていけない。自身の適性のある持ち場につくべきという教訓話

第63杯「いい店の条件」

迷惑客・ラオタ非難回。店が客に迎合していては良い店は構築できない。店側がちゃんとアクションを起こさなければ、店内は迷惑客が跋扈する無法地帯になってしまう。「お店の"カルチャー"っていうのは主人のアクションとお客のリアクションがフィードバックし合って作られるものなんです」という教訓。主張そのものは理解できますが、「客のリアクションが店を盛り上げている」という視点はそれこそ迷惑客にとっての免罪符になってしまいそうな気が。

第64杯「エセ清湯!?」

ラーメン業界では「清湯」という言葉を「透き通ったスープ」という意味で無頓着に援用しがちだが、中華料理における本来の「清湯」とは全くの別物だという啓蒙回。

第65-66杯「魅惑の夏野菜対決!!」

「大地」での芹沢さんとの勝負。具をエスプーマにした斬新なラーメンを作った芹沢に藤本が敗北する。

「オマエがやってることはいつも、既成のラーメンの構造に乗っかって、細部をチマチマ改良してるだけだ…」「だが、ラーメンに限ったことではない。新しい何かとは、構造を疑い破壊することなくしては生まれないのだ!」芹沢、あるいはニューウェーブ系ラーメンの思想が強調されながら描かれる。

当時は(それこそラーメン漫画で具材として扱われるくらいに)あちこちで持て囃され、そのせいか今ではそこまでの特別感はなくなってしまったエスプーマ。本作の影響かは定かではないが、実際にエスプーマラーメンを出している店もいくつかあるらしい。だが、'00年代前半という当時の時代背景を考えると、まさに常識の埒外というべき発想だったのかもしれない。

第67杯「テレビの現実」

片山さん暴走シリーズ第1弾。テレビ取材をきっかけに調子に乗って業界かぶれしてしまうラーメン店主がいる。しかしテレビ局側は「美味しそうに食べる『絵』」が欲しいだけで、実際の味の良し悪しには興味がない。そんな人々に向けて営業してもメリットにはならない、という業界批判。

第68杯「味付けのワナ」

異業種参入店へのラーメン指南シリーズ。和食・フレンチなどのコース料理と同じ感覚でラーメンのスープを作ると、一品で完結する料理のラーメンには味が不足する。

第69杯「麺茹での秘訣」

麺茹で技術の話。平ザルは茹で加減がバラついてしまう弱点があるが、麺を茹でる際に差し水をして水温を下げることでそれを防げる。

第9巻「「ラーメン・マニア・キング」開催」

第70杯「小池さん、廃業!?」

行列問題の話。よくネットに画像が貼られる、芹沢さんのクレーム論のセリフがある。「いいか? 行列店にわざわざクレームをつけてくるようなヤツは、無能ゆえにヒマを持て余していて、そのくせ無闇にプライドだけは高く、嫉妬深いクズのような人間だ」。ネットでは「行列店に」の部分を消したコラが出回っていることに注意。

しかし、実はこの有名なセリフの後には「そんなクズに甘い顔を見せてはつけ上がらせるだけにしかならない。そこで商店会々長を金で懐柔し、クズどもを黙らせてしまうって寸法だ。クズは、力を持ってるものにはからきし弱いからな」とか、「地回りのヤクザを使うという手が…」とか、ダーティーすぎるアドバイスが続く。このセリフを聞いたら手のひらを返すネット民も多そうだよな。

最終的には「順番が来たら携帯電話で呼ぶ」という方法で解決。これは現代でもやってる店をちょくちょく見かける。

第71杯「リストラの味」

家庭でできる美味しいラーメンの作り方を紹介してくれる。

第72-73杯「ラーメン刺客!!」

芹沢の部下と「斬新な麺」をテーマにラーメン勝負。藤本が芹沢に初めて一矢報いる。

第74杯「スパイスの役割」

薬味の話。今回は卓上コショウ批判。臭い消しのコショウはラーメンの風味を飛ばしてしまう。にも関わらず、ただ慣習で卓上コショウを置くのは悪習でしかない。しかしスパイスには「味を引き立たせる」という重要な役目もある。よって単にコショウを撤去するのではなく、味を際立たせる有用なスパイスを置くことが大事、という提案&啓蒙。

第75杯「ダメ従業員矯正法!?」

接客態度の話。強いて言えば脱サラ開業店主に対する苦言?

第76杯「修行ノススメ!?」

普段は「ラーメンに修行は不要」と嘯く藤本が、自分を見失っている店主に対して他店で勉強することを薦める。「独学にこだわるあまり、発想や行動が萎縮してしまっている印象を受けました。」「修行じゃなく、正しく独学してほしかったんです。」

話の中で紹介されている、煮込むのに3日かかるスープを安定生産する方法というのが興味深い。

第77-79杯「「ラーメン・マニア・キング」編」(編者による仮称)

シリーズ初の大長編。本作のストーリー上の分岐点その1。

藤本がラーメンクイズ大会に優勝し、開業資金の1000万円を得るという大きな展開。響子ちゃん、千葉さんの初登場。長編の大会エピソードとお色気要素の投入によるテコ入れを図ったか。

第10巻「夢の果てに」

第80-86杯「「ラーメン・マニア・キング」編」(編者による仮称)

承前。クイズマニアの名門大学生が、付け焼き刃のラーメン知識と競技クイズのテクニックだけで決勝にまで進出する展開が割と面白い。このクイズマニア、ラーメンへの興味が皆無だと公言する生意気な若造として描かれ、最終的に千葉さんにボロ負けして憔悴しながら脱落するという完全なヒール役の扱いを受けている。味わい深い。

第87-88杯「自分のラーメン」

芹沢さん回。開業が現実味を帯びて浮き足立つ藤本に、「まだオマエに店は持てないってことをコンペでハッキリ教えてやる。」

芹沢さんの藤本評が良い。「思うに、これまでオレとのコンペで出してきたラーメンもなかなかだ。だが以前、オマエの屋台で食ったラーメンは、うまいことはうまいが保守的でおとなしい味だった……」

「つまりオマエはラーメンの知識も技術も豊富なだけに、何らかのテーマを与えられたら相当なレベルでこなすことはできる。だが、今回オレがそうしたように自らテーマを生み出すことはできない。前回のようなラーメンしか作れない……」

「どうしてだと思う?」「要するに、オマエには本当に作りたいラーメンがないんだよ!」

なんか修士と博士の違いみたいな話を感じる。身につまされたあまり太字で強調してしまった。

第89杯「原点」

響子ちゃん元カレシリーズ第1弾。東南アジアの麺料理における「バラエティ豊かな卓上調味料による味変」の概念をラーメンに転用。

第11巻「銚子港フェア」

第90-91杯「チェーン店の仕組み」

「楽麺亭」チェーンの蒲生社長が初登場。フランチャイズ店は個人経営店のように100点のラーメンを出すことはできないが、80点のラーメンを1日あたり数万人の客に出せる…つまり個人経営店ではとても不可能な規模で利益を出せるし客を満足させられる、という主張がなされる。グルメ漫画では何かと敵役・悪役にされがちな大資本チェーン店のイメージに一石を投じる。

チェーン店を支えているのは、マニュアル化されたオペレーションとセントラル・キッチン方式による効率化である。この2つの制約をクリアした新メニューを開発し、最終的に提示される「数万人の客に100点のラーメンを出せるのならそれに越したことはない」という結論もスマート。

第92-93杯「好きな味、好きだった味」

最悪の第一印象から、それを覆す人情ドラマが展開される。芹沢に指摘された「本当に作りたいラーメン」への手がかりを藤本が見つける。

第94杯「歌舞伎町ラーメン店の謎!?」

歌舞伎町クラスのマンモス繁華街では、時間当たり通行量が普通の繁華街とはまた変わってくるという話。

第95-96杯「銚子港フェア」

芹沢さん回。「自分のラーメン」の後で初となる芹沢さんとのラーメン勝負。

「我々ラーメン職人がそうしたスープの進化にばかり熱中していたために… タレの進化は、この10年ほどまったく停滞してしまっていたのではないかと思うのです。」という芹沢の問題提起。しかし藤本もまた、タレという構造的問題を自力で発見し、芹沢と同じ目線に立てていた。

第97杯「シメの一杯」

飲酒後など体調によって味覚は変わるという話。飲酒後は炭水化物と塩分が欲しくなる、分かるなぁ。

第98杯「オカルト・ラーメン」

片山さん暴走シリーズ。「一流の料理人は何も言わずともお客の好みを察せるもの」という料理人信仰が突き抜けてしまった結果、新興宗教の教祖のようになってしまったラーメン屋への批判。

第99杯「スープと水の間柄」

響子ちゃん元カレシリーズ。水の硬度がスープに与える影響の話。

第12巻「奇跡のさぬきうどん」

第100-101杯「激突! 千葉vs.藤本」

ラーメンスープの五大定番食材を使わない、というお題で千葉さんと勝負。千葉さんが「既成のラーメンの改良」という本作の負けパターンにハマり、無事敗北する。

第102杯「子連れマニア」

子供客を巡るトラブルの話。子供客自体が店にとって迷惑だと明言している訳ではないが、どこか腫れ物に触るような感じで描写され、言外に「招かれざる客」のように扱われている。しかし、親に無理やりラーメン屋へ付き合わされる子供を同情的な目線で見てもいる。「原作者の両先生が子供嫌いなことが伝わってくる」(snowwhitelilies)という批評も宜なるかな。実際、本シリーズに出てくる子供は『再遊記』の豪大など、率直に言って生意気なクソガキばかりである。

第103杯「コスト・ダウン」

1杯500円の昔ながらのラーメン屋が、近所に1杯380円の激安ラーメン・チェーン店ができたことで経営危機に陥る。藤本らはコストダウンのために試行錯誤するが、その結果は「安くてうまいラーメンを作るのは不可能」というものだった。

なぜなら、現代において「うまいラーメン」というのは1杯700円ほどのニューウェイブ系ラーメン。一方、「安いラーメン」というのはファストフード並みの価格のチェーン店。「安くてうまいラーメン」は両立しないのだ。当然、個人経営店は、正面から巨大資本店と価格競争することなどできない。そこで、藤本は「高くてうまいラーメン」に経営方針を転換するように勧めるが…

第104-108杯「さぬきうどん編」(編者による仮称)

響子ちゃん元カレシリーズ。連載当時ラーメンと同じくブームになっていた、讃岐うどんを特集した長編。今は亡きラーメン職人が作った独特の強いコシがある麺の謎を探るべく、故人のルーツを辿って讃岐うどんを探求するという話。

「ラーメンがテーマの作品なのにさぬきうどん編なのはどうかしている」(snowwhitelilies)という否定的な感想もあるが、筆者は逆にこの回を擁護したい。そもそも本作は「ラーメン=型のない自由な創作麺料理」と定義しているので、「ラーメンがテーマの作品なのに」という感想は論点を見誤っていよう。また、ラーメンという食べ物の進化を考えるとき、ラーメンの先達的存在でもあり競合相手でもあるうどんにヒントを求めるというのは発想としては自然である。しかもそれが同じようにブームになっているとあらば、いわば「敵情視察」をしに行くのもなおさら蓋然性がある。

美味しんぼ』のスリランカカレーは「ルーツを辿っていった結果、却って本質を見誤ってしまう」というオチだった(あちらのオチにはかなり批判もあるが)。しかし、うどんとラーメンはインドカレースリランカカレーのように「一見近い」関係ではなかったためか、こちらのオチではラーメンの麺にうどんのエッセンスを貪欲に取り込むことに成功している。

第13巻「ラーメン・テーマパーク始動」

辻井係長の代わりに葉月主任が登場。

第109杯「アクション湯切り」

片山さん暴走シリーズ。パフォーマンス的な湯切りが流行だが、やりすぎると麺が傷んで味を損ねてしまう。後に六麺帝の一角となる中嶋屋がしれっとカメオ出演している。

第110杯「リニューアル対決!!」

佳作回。前巻103話の「めんめん食堂」が代替わりを決意。先代の味をニューウェイブ系に改良して700円の高級路線にしようとする藤本だったが、店のオリジナリティを残したブラッシュアップには行き詰まってしまう。後継者から、試作版の味に難色を示されたときの藤本の嫌そうな顔がウケる。

後継者は藤本に見切りをつけ、芹沢にテコ入れを依頼。そこで芹沢が何をしたかと言えば、外観をリニューアルして500円のラーメンを850円に値上げしただけ。しかしそれでも十分に繁盛する結果になった。芹沢曰く、ブティックで5000円のセーターが売れ残ると、2万円に値上げして売り切ってしまうのと同じ原理。「高度情報化資本主義社会においては、モノの価値が価格を決定するだけでなく...」「価格がモノの価値を決定するということが、往々にして起こりうるのだ!」頷ける言説である。

例えば芸能人格付けチェックを見ればわかるように、人は得てして『高価ならば優良なはずだし、優良ならば高価なはず』と考えがちである。1本100万円のワインと1本5千円のワインを同時に見せられると「明らかに5千円の方が劣るはず」と思ってしまう。番組側はそのイメージを利用した企画をやっているわけだが、現実には1本5千円だって充分美味しいワインはある(というか、そこそこ良いワインの部類に入る)。中には味わいが1本100万円のそれと似ている品だってあるのだ。価格は必ずしも品質のバロメーターではない…のだが、芹沢はその誤謬を利用し『高価ならば美味いはず』という認知を植え付ける戦略を取った。

結局、芹沢はラーメンの味ではなく店舗イメージだけを現代風に刷新することで路線変更し、利益率を大幅に上げることに成功。先代も後継ぎも満足しており、藤本は完全に空回りする結果に。「味だけがラーメン屋の全てではない」という現実を思い知らされ、藤本は芹沢を前にうなだれてしまう。

ラーメン1杯700円が高級というあたりに時代を感じる。東京なら今や比較的お手頃な部類である。

第111杯「女性客に優しい店」

武田さん回。女性客にとって居心地の良いラーメン店とは何かという啓蒙回だが、オチが何ともはや。後に六麺帝の一角となる中嶋屋がしれっとカメオ出演している。

第112杯「ラーメン・テーマパーク始動」

葉月主任の初登場。ラーメンには何の興味もないが、飲食ビジネスのセオリーには強いという今までいなかったタイプのキャラクター。当時雨後の筍のごとく流行っていた「ラーメン・テーマパーク」事業参入という新企画を引っ提げてやってくる。

ここから話の主な舞台は自然食レストラン「大地」からラーメン・テーマパークに移る。本作のストーリー上の分岐点その2。

第113杯「デパート売り上げ勝負!!」

藤本と葉月主任の売上勝負。催事場の仮設店舗は本店と勝手が違うので作業効率が落ちるし、一見客に店の売りを分かりやすくアピールする必要がある。だから品数を絞り、オペレーションに長けたスタッフを用意しなければならない。 そういうセオリーを知らない藤本は売上面では完敗したが、アンケート調査の結果… ひいては予想されるリピーター率では圧勝だったため、結果的には引き分けとなる。

第114杯「古き良き時代の味」

佳作回。「昔ながらの中華そば」へのノスタルジーに染まった建築家をラーメンで接待する。「これぞまさしく「昔ながらの中華そば」だよ。だが、しかしながら…」「今 食うと… 恐ろしくマズい。」

「昔ながらの中華そば」は日本が貧しかった時代の未成熟な料理に過ぎず、食生活の水準が向上した現代の日本人の味覚にそぐうものではなかった。「古き良き時代のラーメン」はノスタルジー混じりの幻想に過ぎない。本シリーズで繰り返し主張される「昔ながらの中華そばはゴミ」というテーゼが強調された話。

第115杯「テキサスラーメン」

コメントに困る回。「麺をすする音は他の文化圏では受け入れられないことがある」というテーマは興味深いが…。「日本の漫画に出てくるアメリカ人属性」にありがちな、金髪・碧眼・高い鼻・やたら陽気・「ナントカデース!」系の口調、もう少し何とかならんかったんだろうか。

すすらないスープ入り麺というと、中国の麺料理で時々見かける、指で千切って作るショートパスタ状の麺が真っ先に思い当たった。まあ「ラーメン」として売るのは厳しいかもな。

第116-117杯「ネクスト・ブランド」

千葉さん回。「神麺亭」のラーメン・テーマパーク支店が経営危機を迎える。支店をネクスト・ブランドにし、本店との差別化を図ることで解決。

「オレは、経営者である前にラーメン職人だ!!」「なにがラーメン職人よっ!! いい年したオヤジが青くさいこと言って、バカじゃないの!?」。相手の感情に配慮しない提案ばかりをピンポイントでぶち上げ、その上コネを作ろうとしている相手にその場の勢いでケンカを売る葉月主任、商社マンとしてどうなんだ? こういう対立は最終的に和解しがちだが、ここでは千葉と葉月が結局わかりあえず終わるのが小気味いい。

第14巻「幻の博多屋台ラーメン」

第118杯「スープの温度」

ラーメンスープの温度は75~80度ほどだが、一般的なスープ料理は60度ほど。それ以上の温度では風味など吹っ飛んでしまうので、スープを味わうために60度のラーメンを出すという、本来の意味でこだわりの強いラーメン屋が登場。

第119杯「夢のビジネス」

響子ちゃん元カレシリーズ。ラーメン業界というより、「クリエイティブ」を標榜する勘違いヤロー全般への批判回。立志伝中の人物のような模範的ラーメン屋を藤本に見せられて考えを改めるのかと思いきや、1mmも改心せずに終わるのが良い。世の中そんなに大団円ばかりではない。

勘違いしたまま詐欺師にいいようにカモられ、どう考えても碌なことにならない道へ自らまっしぐら…という、スカッとするんだか後味悪いんだか分からないような展開もまた良い。チョイ役で出た芹沢さんの「どっちもどっちと思うがね。」「本人達は楽しそうなんだからいいじゃないか。一か月後も楽しい顔してるかは知らんがな。」という冷笑セリフ、作者もだいぶ力入れて書いてそう。

第120-121杯「冷やしラーメン勝負」

芹沢さんとの冷やしラーメン勝負。「ククッ… ラーメン・マニア君との楽しい夕べもこれで最後となると寂しいねぇ…」。藤本のラーメン勝負にいい顔をしない葉月を前に、芹沢がさりげなく藤本に助け舟を出す。

第122-125杯「幻の博多屋台ラーメン」

ご当地ラーメン回。今回は博多、それも「屋台のラーメン」が題材。契約成立のため、取引先のすごいバカボンをラーメンで接待する。

第126-127杯「FC店の不正を暴け」

勧善懲悪回。フランチャイズ店のビジネスモデルやオペレーションの内情の解説は勉強になる。

第15巻「恭麺亭VS.真恭麺亭」

第128杯「父のラーメン娘のラーメン」

視覚情報は味覚に影響する――つまり器の色や形によっても味の印象が変わるという教訓話。食に大雑把な葉月主任、なんで外食部門のエースやれてんの?一切思い入れがないからこそ逆に客観視できるのかな?

第129-130杯「激辛ラーメン対決」

テレビ番組で芹沢さんと激辛ラーメン勝負。第三次激辛ブーム真っ只中の2005年当時の世相が感じられる。

辛ラーメンは既存の辛味調味料(特にラー油)に依存しているために味の構造がワンパターンで、もはや「ラー油ラーメン」でしかないという激辛ラーメン批判。既製のラーメンの構造に乗っかってラー油を改良しただけの藤本に対し、強烈な辛味・旨味を同時に含んだ味わい深いスープを持ってきた芹沢が勝つ...かと思われたが、審査員が味音痴だったせいで引き分けに終わる。

明言はされていないが、芹沢は藤本のためにわざと引き分けに持ち込ませてあげたのでは?という気がする。

第131杯「ラーメン本詐欺事件発生!?」

超・久しぶりに(14巻ぶり2回目)有栖さんの「大魔神」顔が出る。オチはコミカルに描かれるが、『才遊記』の「濃口らあめん・解」騒動を読んでからだと笑えない。

第132杯「若き実力派店主の悩み」

佳作回。響子ちゃん元カレシリーズ。5回目にしてやっと今カレ、のはずだったが…。

スープはラーメンの中で最大の時間・費用・労力がかけられており、ある意味では麺よりも主役を張っている部分なのに、残すのが習慣になっているという問題提起。なぜなら、かけ蕎麦・かけうどんなど日本古来の麺料理では麵が主役であったことから、スープは調味料の一種に過ぎないという固定観念があるため。だいいち、味の濃い400~500ccものスープを完飲することは現実的ではない。最終的には半ライスを提供して雑炊の手順を示し、レクリエーション的に客の参加を促すという解決策を提示する。当時の事情は分からないが、現代では家系ラーメン店を中心に、ごく一般的に行われているサービス。

スープの廃棄やグリストラップに関する話は、続編の『らーめん才遊記』を参照。スープを全部飲ますためにライスを提供する店、今でこそ当たり前ですけど、この頃はそうでもなかったのかな。スープも全部飲んでほしいという店側の感情は理解できるのですが、ラーメンのスープを全部摂取するのは生活習慣病の予防という観点からはちょっと厳しくないか?話としては面白いが、教訓としては共感できなかった。

第133-134杯「危うし!!ラーメン・テーマパーク」

当時雨後の筍のごとく増殖していた、目先の利益に飛びついただけの安易なラーメンテーマパーク路線への批判。

まず千葉さんと13巻で登場した「神麺亭」支店が再登場。出店しているラーメンテーマパークの母体企業の方針がいい加減だったために客が寄り付かなくなり、施設ごと閉店が決定したと藤本たちに教える。

そして四谷課長が登場以来初めて怖い顔をし、ラーメンテーマパーク業界の現状を教えて藤本・佐倉・葉月を叱責。ラーメンテーマパークはもはやレッドオーシャンと化してしまい、強い商品力・魅力的なテーマがなければ消費者を呼び込めないリスキーなビジネスになったのだ、という啓蒙回。

連載の展開がなかなか進まない間に現実世界での情勢が変化してこういうフォローをしなければならなくなったマンガって時々ありますよね。そういや確かにラーメン・テーマパークって15年くらい前まで色んなところで見かけたものでしたが、特に2010年くらいから急激に減ってきたような(2000年代に東京で生まれ育った人間としての何となくの感覚)。

第135-137杯「恭麺亭VS.真恭麺亭」

久しぶりの天宮再登場。勧善懲悪で話を始めた後、フードコンサルタント業を始めた天宮とラーメン勝負。芹沢さんが審査員。

いつも通り芹沢を挑発する天宮だったが、芹沢からの返しの切れ味が良すぎる。「不安なんだろ? キミ、東大中退なんだってな。東大時代は、黙ってても周りが「凄いね」「頭いいね」って持ち上げてくれただろうが、今は、わりと稼ぎのあるフリーターってぐらいのもんだ… 自分から「ボクって凄いでしょ」「有能でしょ」って周りにアピールして承認してもらわないと、落ち着かないんじゃないのか? 優等生にはよくあるパターンだよ。」この悪口で正直ちょっと溜飲が下がったかも。作者のヘイトコントロールが巧み。

天宮が「安定供給できない材料を使う」という本作の負けパターンにハマり、無事に敗北。

第16巻「火の国・熊本ラーメン!!」

第138杯「麗しの女性アルバイト!!」

勧善懲悪系の微妙な回。女好きの武田さんが女性アルバイトに騙されて横領される話。

ぶっちゃけ私も飲食バイトしてて「あぁーこのマネージャやってんな?」と感じることがあるので(証拠はない)、話としてはそんなに面白くなかったけど実感を持って読めた。不正対策のために技術を使うのはエンジニアとしては自然な発想に見えるが、不正してる人の権限が強いとそもそもそういう技術の導入を拒否できちゃうんだよな。

第139-142杯「熊本編」

ご当地ラーメンシリーズ、今回は熊本ラーメン。四谷課長の博多ラーメン至上主義精神が、文字通り火を吹く。

第143杯「屋台ラーメン勝負!!」

篠崎の初登場。佐倉を見初める露骨なポッと出イケメンキャラ。藤本の恋敵になる。

第144杯「佐倉の想い」

前回の続き。藤本・篠崎・佐倉の三角関係が明確になる。恋愛路線でテコ入れしようとしたのだろうか?ラーメン・テーマパーク編に入ってから展開がマンネリ化してきていた感は確かにあったが。

第145杯「芸能生活40周年記念ラーメン」

片山さん暴走シリーズ。製麺機の設定をいじって40mもの超ロング麺を作る。

第146-147杯「ラーメンで女心を掴め!!」

藤本と篠崎が女性向けラーメンで勝負。女性の食事嗜好というと「あっさり」「ヘルシー」「少食」のイメージがあるが、それは誤り。若い人間は男女とも油分・塩分・ボリュームを求めていて、必要なのはそれを覆い隠す体面だけに過ぎない。「藤本クンのラーメンは確かに美味しい。相当なレベルだ。しかし、アッサリ好きでヘルシー指向という、どこにも存在しない幻想の女性に向けて作ったものでしかないんだよ。」

佐倉にいいところを見せようとした篠崎だったが、逆に敗北した藤本と佐倉の仲の方が深まってしまう。試合に負けて勝負に勝ったのは藤本だった。

第17巻「完成!! 沖縄ラーメン!!」

第148-149杯「老舗ラーメン店の謎」

「怠け者」に関する人材論、そして経営者としての責任の話。「怠惰と詭弁と責任転嫁だけで生きている」ような、どうにも救いがたい人間は世の中に一定数存在し、時に穀潰しと化す。「ヤツらはとにかくレジ打ちだけとか、同じメニューを作るとかだけしていればいい、このラクな職場を1ミリたりとも変えたくないんだ。たぶん、客も少ない方がいいとさえ思っている。」そういうクズは店から追い出すしかない、という芹沢の毒舌で有名な回。

ネットミーム化して独り歩きしている有名な台詞の蓋を開けてみると、切り抜き元の作者の主眼はそれを否定することにこそあった、ということはよくある。しかしこの話の場合、芹沢が毒舌キャラを発揮しているというより、それを描いている作者の価値観自体がシビアというべきだろう。芹沢の言葉を受けた藤本と葉月の会話にもそれが現れている。 「つまり…彼らは単なる怠け者で、ラクをするために先代への思いを都合よく使ってるだけだっていうわけですよね。でも、そんなことしてたら確実に雷々軒は潰れますよ。失業してもいいから怠けていたいってことですか?」 「失業してもよくはないだろうけど……ああいうタイプの人達って、どんな危険な状況でも自分だけは何もしたくないし、楽をしていたいの。何の根拠もなく、誰かが何とかしてくれるものだって思ってるのよ。」

第150杯「ラーメン・マニア大暴走!!」

トンデモ回。従来のラーメンWebサイトにはない何らかの特殊な情報をウリにすることで、自身のWebサイトの差別化を図ろうとするマニアが現れているという話。 スープの温度を測る客、スープの糖度を測る客、スープの塩分濃度を測る客、麺の長さをメジャーで測る客、顕微鏡でスープを観察する客など、濃いメンツがラーメンこいけに勢揃いする。

さすがにフィクションだろうと思ったら、少なくともスープの温度を測るラーメンサイトはなんと実在していた(最近は活動がないようだが、それでも2020年までは更新が続いている)。味覚に「絶対的、客観的ランキング」を求めていたり、歴史の遺物ともいえる<frameset>を未だに使っていたりするのが趣深い。

ちなみに『らーめん再遊記』の特別扉絵で出ていた佐倉さんの絵は、本話最終コマのセルフリメイクのようです。

第151杯「昼ラーメン・夜ラーメン」

昼と夜で客層が極端に変わる立地に対応するため、昼間営業と夜間営業で店名も味も変える「昼夜二毛作系」の紹介。

第152杯「想い出の東京ラーメン」

佳作回。響子ちゃんのおばあちゃんのため、戦後復興期の東京で亡きおじいちゃんと食べた思い出のラーメンを再現する。

おばあちゃんが美味だと語る謎の調味料の正体は、貴重品として当時の人々の味覚を喜ばせた砂糖であった。二段構えのオチが良い。

第153-156杯「沖縄編」

ご当地ラーメンシリーズ。「ラーメン不毛地帯」と言われる沖縄だが、代わりに沖縄そばがあるという話。似て非なる料理であるラーメンとの共通点と差異を分析し、篠崎とラーメン勝負。

第18巻「芹沢VS.篠崎&藤本!!」

第157杯「味オンチはどっち!?」

曜日ごとに全く異なる味のラーメンを提供する「曜日替わり系」ラーメン店の紹介。

第158-160杯「“中華18番”編」(編者による仮称)

ラーメン・テーマパークに出店する予定の店が不測の事態で参加できなくなり、紆余曲折の末に代わりの店舗を見つけ出す。

第161杯「オープン初日の大騒動!!」

テーマパークの営業初日、様々なトラブルに藤本と佐倉が四苦八苦。内容的にはそれだけだが、「拉麺タイムトンネル」参加店主達の人となりを示して今後の伏線を張っている。

第162-165杯「Wテイスト・ラーメン勝負」(編者による仮称)

芹沢さんと篠崎・藤本のラーメン勝負。番組のディレクターに八百長の負けを頼まれた芹沢は、あっさりと承諾する。そして舌バカな審査員には分からないが分かる人には分かるラーメンを作り、言わば「試合に負けて勝負に勝つ」展開を自らお膳立てして、藤本と篠崎に格の違いを見せつけるのだった。この敗北で篠崎と藤本が意気投合し、佐倉との三角関係展開が完全になくなる。

第19巻「新・津軽ラーメン決定戦!!」

第166杯「ラーメン店 店主の心得」

美味しい料理を作るには、レシピはもちろんのこと食材の質も重要。だからこそ卸業者からの食材のクオリティにも目を光らせなければいけない。自分の店を守るためには店主としてやるべきことはしっかりやれ、という教訓話

第167杯「店員採用の条件は何!?」

店員は客にオススメを教える責任を背負っている。それはラーメン屋として大事な心掛けなのだという教訓話

第168杯「藤本推薦のお店!?」

コメントに困る回。「ラーメン・マニア・キング」で優勝した藤本は、店の宣伝に使えるくらいの知名度を得ていたのだが…。

第169-172杯「青森編」

ご当地ラーメンシリーズ・津軽ラーメン編。辻井係長が東北支社に転任し、空いた係長のポストに葉月さんが昇任。人情オチながらほろ苦い結末が良い。

辻井のキャラクターは『美味しんぼ』の富井副部長をかなり意識していると思われるのだが、この回で辻井が退場したため葉月が代わりにそのポジションを担うことに。結果として、この辺から葉月の非常識さに拍車がかかってくる(むしろ、葉月の登場で辻井係長が空気になったので退場させたという見方も可能か)。

第173杯「自家製麺という名の魔法」

片山さん回だが、今回はそこまでの暴走はしていない。業界ゴロの神代の初登場。自家製麺を謳いつつ業務用スープを使って利益率を上げる、というイメージ戦略の話。「情報を食わせている」点では芹沢さんと同じだが、こっちの方がだいぶ悪質という点で差別化されたキャラ。

第174杯「店舗拡張に潜む罠」

「行列も味のうち」という教訓話。イメージ戦略としてあえて行列を作ろうとする藤本が矛盾を指摘される。

自分は「行列の正体見たり低価格」という店に出くわすことが多いです。

第20巻「和歌山ラーメン対決!!」

第175杯「神代の悪事を阻止せよ」

勧善懲悪回。神代から法外な額を搾り取られているラーメン店に藤本が助太刀する。

第176-177杯「小菅一族の顛末」

個人的には佳作回だが、人によって評価は分かれるかも。久しぶりの響子ちゃんと、14巻の小菅一族が再登場。そして久しぶり(3回目?)の有栖の大魔神顔も登場。

一言で言えば「巷に溢れる『普通の中華そば』信仰」への批判話なのだが、「ブランド信仰」全般に対する作者の冷笑っぽい視線も入っているのでややこしい。かつて大衆のモノとして始まり今や伝統文化となりつつある寿司や落語だが、大衆文化としてはラーメンやお笑いほど親しまれてはいないし、伝統文化としては能・狂言や懐石ほどの権威もない、曖昧な立ち位置に過ぎない。それを自覚せず、プライドやコンプレックスを肥大させて威張っている寿司屋・落語家への反発。「ラーメンは所詮/あくまで大衆のモノ」という『中華そば至上主義者』に対する、ニューウェイブ系ラーメン業界の強烈な反発意識が窺える。勧善懲悪回ではあるが、文化史的にも、ラーメン業界というエスニシティ民族誌としても興味深い話。

第178-182杯「和歌山編」

ご当地ラーメンシリーズ、和歌山ラーメン編。進藤の初登場。佐倉さんの恋敵になり、今度は藤本を巡る三角関係が勃発。また色恋沙汰のテコ入れか?

第183杯「取材拒否の店

取材拒否には色々な理由があるという話。なのだが、「オジサン相手の交渉事には、若くて可愛い女の子が一生懸命お願いすれば効果抜群」という身も蓋もないオチが良い。「人のこと言えないけどホント、男って単純なもんだね。」こういう手を使わずに取材拒否の店をカメラの前に出している寺門ジモン、どうやってるんだろ。

第21巻「新品川ラーメンウォーズ!!」

藤本らダイユウ商事の拉麺タイムトンネルに対抗して、大手資本の絡むラーメン・テーマパーク「六麺帝」がオープン。六麺帝の実質的なリーダーは芹沢であり、藤本は実質的に芹沢との6番勝負を強いられることになる。ここからが最終章。

六麺帝のモデルは品川駅に実際にあったラーメンテーマパーク「品達」でしょうか。場所と時期が一致する。コロナが流行りだす直前に京急品川駅の再開発で消えてしまったが、個人的に懐かしい。

第184-185杯「六麺帝編プロローグ」(編者による仮称)

「最高の立地で最高の商品を売る… 単純なようで、実は これこそが一番のビジネスの必勝法なんです。」だが、それは強者にしかできない戦略でもある。最初から分の悪い戦いを挑まれた藤本たちは、四谷課長のサポートで「六麺帝」と同じ土俵での勝負に漕ぎ着ける。

第186-189杯「vs六麺帝第1戦:スープOFF対決」(編者による仮称)

人情話。

第190-191杯「「花輪つけめん亭」騒動」

片山さん暴走シリーズ。しかも暴走の仕方が今までで一番タチが悪い。ネット掲示板で本作の片山さんの話題が出ると、だいたいこの回の画像が貼られて荒れる。

第192杯「つけ麺の功罪」

前回から続いてつけ麺回。当時のつけ麺ブームの盛り上がりようが察せられる。「スープ切れ」と称して看板のラーメンを出さず、回転率の高いつけ麺だけを出す「サギ的」な店への業界批判。

私の家族はつけ麺を見るたびに「コストと労力のかかったスープを客に出さない姑息な料理」「そもそも美味しくない」と主張して憚りません。

第22巻「知性VS.野性」

第193-197杯「vs六麺帝第2戦:札幌・醤油ラーメン対決」(編者による仮称)

芹沢さんをも振り回す暴言女子・「中華すいれん」の三原が登場。「なにスカした理屈こねてんだ、このハゲ!」作者はこういうタイプが好きなのかもしれない。芹沢さんのスキンヘッドは別にハゲではなく、髪の毛がラーメンに入らないように剃っているだけらしい(事実、後年の作品では若かりし頃のフッサフサの芹沢青年の姿が描かれる)。

芹沢さんが後攻の立場を活かして、先攻を上回るインパクトを持つ味付けに土壇場で変えるという盤外戦術を使う。

第198-201杯「vs六麺帝第3戦:ニンニク対決」(編者による仮称)

武田さんが藤本側で出場し、これまで何度かカメオ出演してきた「中嶋屋」が本格登場。知性ゼロに見えて、その裏を突くように計算高い武田さんの一面が明らかに。

武田さんがスッポン・ニンニク・唐辛子を使った強烈なラーメンを先攻にして、後攻の中嶋のラーメンの味が分からなくする盤外戦術を使う。だが、まともに勝負していても藤本たちの勝ちだったため、盤外戦術のせいで武田が自分の評判を落としただけというオチがつく。

第23巻「長野の神髄」

第202杯「清潔戦争」

片山さん暴走シリーズ最終回。髪の長短は衛生には関係なく、むしろ長い方が料理に落ちても気づくことができるだけマシという教訓話…なのだが、行くところまで行ったトンデモ回。

第203-207杯「長野編」

ご当地ラーメンシリーズの長野ラーメン編にして、神代と決着がつく勧善懲悪回。

第208杯「名前の落とし穴」

「半熟煮玉子」の製法が分からずに思いつめてしまう和食料理人が登場。「半熟煮玉子」は本当の煮卵ではなく、半熟ゆで卵をタレに漬け込んでいるだけという豆知識回。

第209-210杯「激辛シスターズ」

葉月さんの双子の妹が登場。酒が入っているとはいえ飲食店で他の客を羽交い絞めして腹パンかます葉月姉妹、性格がキツいとかいう次元の問題ではないだろ。

各国の様々な辛い料理を紹介して「激辛はゲテモノではない」ことを示した後、花椒を使った麻辣味の激辛ラーメンを葉月妹に食べさせる。 自分の店でとんだ惚気プレイを見せつけられる小池さんには同情するしかない。オチを見ると、原作者は葉月姉妹みたいな女性が好みなのか?という気もしてくる。

第24巻「博多っ子戦争」

第211-216杯「vs六麺帝第4戦:早茹で対決」(編者による仮称)

明らかにギャル曽根をモデルにしたフードファイターが登場。そう言えばこの頃は大食い番組も多かったし、ギャル曽根が人気を博してあちこちで引っ張りだこでしたね。

新藤が本格的に藤本を狙い始め、佐倉を計算高く蹴落とそうとするようになる。この辺の生々しいドロドロした感じ、響子ちゃんの頭空っぽな言動が懐かしくなってくる…。

第217-219杯「ニューウェイブ蕎麦編」(編者による仮称)

葉月妹の再登場。蕎麦にもニューウェイブ系の時代が来ていると同時に、「ニューウェイブ系ラーメン」自体もどんどん変化を続けているという時流紹介話。様々な変化を続ける両者を前に、「ラーメンって何?」という重要な疑問が呈される。以前のさぬきうどん編にも、ひいては続編の『才遊記』にも通ずる視点。

第25巻「鬼のメン」

第220-225杯「vs六麺帝第5戦:コピー対決」(編者による仮称)

互いに互いの味をコピーし合う、という異色の対決。この作品でコピーとなると出てくる奴は1人しかいない。ということで、天宮との最終決着。「こういう奴なんだよ。ラーメンを、ただのモノとしか見ていない…」「だって実際、ただのモノじゃないですか。」しかし、そんな天宮を真っ向から否定するようなヒューマンドラマで決着。

第216杯「快勝のあと…」

前話の出来事を「お涙頂戴」「くっさい人情芝居」と吐き捨てる天宮。このブレなさは一周回って好感が持てる。そんな天宮が芹沢の策で六麺帝に開業することになり、思い悩む藤本。

第217杯「ピンチヒッター?」

今までの5つの勝負は、全て藤本のお膳立てがあってこそだったと気づく関係者たち。ということは…。

218杯「アンタが大将!」

承前。藤本が芹沢との最終戦を引き受け、会社に正体を明かす。そして、退職して開業することを決意する。

藤本を後押しした後の千葉さんの一言。「あれからも延々ウダウダしてるオマエを見ると、イライラしてな。」後年、作者はなかなか藤本が脱サラしないことに内心ウンザリしながら連載していたことを語っているので(そういう話なんだからしょうがないのだが)、この台詞には作者の気持ちがこもっていそう。

第26巻(最終巻)「ラーメンふじもと」

第229-234杯「六麺帝編最終戦:ラーメン百周年対決」

本作のラストバトルは藤本vs芹沢。「ここらで、オレとオマエの最終決着もつけることにするか。」

藤本の脱サラ開業願望を知って、進藤が一気に幻滅していく様子が味わい深い。「ラーメン馬鹿同士、お幸せに!!」

究極と思われた芹沢の「淡口らあめん 極」だが、ただ1つだけ雑味があった。「『らあめん清流房』の成功は、オレが客を信じることをやめたところからはじまったわけだ。」「だが、それからラーメン界も変わった。今の客なら、オレの理想の味を理解してくれるかもしれない。そう考え、今回、「淡口らあめん 極」を編み出したわけだが… 確かに、どうしてオレは鶏油なんか入れてしまったんだろうな?」

「有栖クンらに指摘されて、気づきかけてはいたんだが… この藤本クンのラーメンを口にして、オレが余計な鶏油を入れた理由がハッキリ分かった…」「藤本クンのラーメンには、一点の迷いも感じられない。自分がうまいものは、客だって、うまいはずだという信頼感に溢れている…」「しかし、いや、やはり、オレは…」「客を信じ切れなかった…」

第235杯「万福寺公園の夜」

第1話の伏線回収。四谷課長が藤本(と佐倉さん)にラーメン関係の仕事ばかりやらせていたのは、前任の課長からの申し送りだった。

第236杯「ラーメンふじもと」

佐倉に対する葉月のセクハラがいよいよ来るところまで来た。しかし退職直前だという状況を考えると、こういう形でしか親密さを表現できない可哀想な人なのかもしれない。

ブコメ漫画でよくある、余り物同士(天宮と新藤)がくっつく展開。不安定な職の男は嫌なんじゃなかったのか。

第237杯(最終回)「ありがとうございましたあっ!!」

芹沢から藤本への餞別。「店をやるということは、常に時代の嗜好の半歩先を行く姿勢が必要だ。」「それがもう、今から立ち止まっているとは… 大丈夫なのかね、藤本クン!」ここに来てやっと、自分がここまで来れたのは芹沢のおかげだと気づいた藤本。

「フッ… 1センチの礼にしては、大袈裟だな。」2コマの沈黙、芹沢さんの目の移り変わりが良い。これ、芹沢本人は主人公じゃなく、あくまでも主人公のライバルポジションだったからこそ成り立つ描き方だなぁ。

芹沢は藤本に憎まれ口を叩きながらも、実は端々で親心を見せ、教え諭し続けてきた。それは、かつて自分が見失った理想を藤本に見たからだった。